生田の力もち・太郎作(美合町)
むかし、生田村(今の美合町)に、太郎作という百姓がいました。太郎作は、たいそうな力持ちでした。となりの岡や保母の村にも、太郎作の力にかなうものはいませんでした。
「どかかに、力のあるやつはおらんものか。」
太郎作は、自分の力をためしてみたくてしかたがありませんでした。
そのころ、大平川を上の方にいった樫山というころに、小太郎というたいそう力持ちのきこりがいました。
小太郎が、山でとったくりやくるみを売りに出ていたときのことです。
太郎作がお宮の前の市に出かけたみると、今まで見たこともないおきな男が、くるみをならべていまいた。
「あれが、小太郎だな。どれほどの力持ちか知らんが……。」
太郎作は、小太郎に自分の力を見せてやろうと思いました。太郎作は、小太郎の前に近づくと、にこにこしながら話しかけました。
「おらあ、太郎作というもんじゃ。こりゃ、実のよう入っとりそうなくるみだのん。ほいでも、虫くいじゃないだらね。」
そう言うと、二つの指にくるみをつまんで、ぐっと力を入れました。すると、石のようにかたいはずのくるみが、バチツと音をたててわれました。

太郎作は、わけもないといいたげに、つぎつぎと、くるみをわってみせました。
市が終わると、小太郎が太郎作の家にやってきました。
「太郎作さ、あんたの家にゃ、いい竹があるのん。しょうのいいのを二、三おくれん。」
太郎作の見ている前で、小太郎は、片手で竹をにぎると、えいっ。竹は、根もとから引きぬかれました。いともかんたんに、二、三本ひっこぬくと、わらって言いました。
「太郎作さ、いつか一ぺん、力比べをやろまいか。」
それから、一月ばかりすぎました。
大雨が三日三ばん、ふり続いて、野や山にあふれた雨水が、大平川に流れこみました。川の水は、ごうごうと音をたてて流れていました。
川のつつみを見回った太郎作は、流れを見て言いました。
「ようし、力比べだ!」
急いで家に帰ると、小太郎のところに使いを出しました。そして、厚さ三寸(約九センチメートル)長さ一間(約一・八メートル)もある板を二枚用意しました。おとなの人が持ち上げるのがやっとという、重くてじようぶな樫の板でした。この板は、力比べに使おうというのです。
小太郎が大平橋にやってきてみると、ふんどうしひとつの太郎作が、板をかかえて、待ちうけていました。
「小太郎、さあ、力比べだ!」

この板で、どっちが長く川の流れをせきとめられるか、さあ、勝負じゃ。」
「おお、ようし。」
小太郎も、ふんどし一つになると、板をかかえて向かい合いました。
二人は、かけ声とともに、大平川の流れの中におどりこむと、手にした板を流れに向けておしあてました。川の流れが、二つの板におしとめられ、板のむこうでもり上がりました。もり上がった水があふれて、滝のように流れおちました。太郎作も小太郎も、ううんとばかりふんばりました。
川岸に集まったおおぜいの見物人が、二人の力比べを見まもりました。
太郎作が一歩、流れをおし上げると、小太郎も一歩おし上げる。小太郎が二歩進むと、太郎作も二歩進む。
太郎作と小太郎が三歩進むと見物の人たちは、手をたたき合いました。
「太郎作さ、強いのう。」
「小太郎さ、おんしも強いのう。」
二人は、顔を見合わせました。川の流れに板をおしあてたまま、二人の力持ちは、にっこりわらい合っていました。