馬から落ちたお殿様 (坂左右町)
むかし、西尾のお殿様が、毎年岡崎のお殿様の所へあいさつに行ったり来たりしていたころのことです。
ある日、お殿様はおおぜいのけらいを従え、堂々と馬にまたがって通りかかりました。
道ばたで行き会う人々は地面にひれふして、あいさつをしました。
ところが、国正村を過ぎて坂左右の村に入ったとたん、お殿様が馬から
「スッテンコロリン」
と落ちてしまいました。
村の人はびっくりするやら、おかしいやら、思わずクスクス笑ってしまいました。
「しまった。余が落ちるとは。ついねむってしまったのか。」
けらいにどろやほこりをはらわせ、また馬にまたがって岡崎城に向かいました。
その帰り道、ふしぎなことにまた同じ所で
「スッテンコロリン」
と落ちてしまいました。
地面にふしていた村人は、こっそり顔を見合わせ、クスクス笑いました。
「余の乗り方が悪いのかな。それとも、馬が石につまずいたのかな。それにしても同じ所で二度も落ちるとは。」
お殿様は首をかしげながら西尾の城へ帰っていきました。
あくる年の正月、年賀のために岡崎城へ行きました。
しかし、行きも帰りも
「スッテンコロリン」
と落ちてしまいました。
そのまた次の正月が来ました。
「今年こそは落ちないぞ。」
お殿様は固く決心して岡崎へ向かいました。
やがて坂左右の村にさしかかりました。
「この辺だな、いつもの所は。」
自分にしっかり言い聞かせて、手綱をしっかり持ちました。
このぶんならだいじょうぶ、通れるぞ、と思ったとたん
「あっ。」
声をあげ、またもや、ものの見事に「スッテンコロリン」
村の人は笑うどころか、ふしぎにさえ思えてきました。
お殿様はくやしさでなみだまでうかべて、馬に乗りなおしました。
行列は心なしか元気がありませんでした。
この日は、お昼の少し前からめずらしく大雪になりました。
お殿様が帰るころには、坂左右の村もまっ白になりました。
「こんな大雪だから、ころばないようにいっそう気をつけてまいろう。」
村をあと少しでぬけられる、いつもの所まで来ると、またまた、
「スッテンコロリン」
お殿様は泣きそうな顔で起きあがって、ふと見ると、あら、ふしぎ、ころがった所だけ雪がつもっておりません。
「どうも変だな。」
と思いながら、さっそくけらいにほらせてみました。
すると、土の中から大きさ一寸八分(約五センチメートル)の金のおじぞうさんが出て来ました。
お殿様もけらいも、みんなびっくりしました。
そして、手を合わせておがみました。
しばらくしてお殿様は手をポンと打つと、
「ああ、これでわかったぞよ。余は今までこの金のおじぞうさんの上を馬に乗ったまま、またいで通っていたから落ちたのじゃ。」
と言いました。
そして、村の名主をすぐ呼びつけて、
「この金のおじぞうさんは、坂左右村がゆうふくになるようにと、出て来られたのじゃ。ていねいにまつってくれ。」
と申しわたし、たくさんのお金をあたえました。
まもなくそこにじぞう堂がたてられ、中に金のおじぞうさんがおさめられました。
それからはずうっと、西尾のお殿様は坂左右の村を通る時、おじぞうさんの前で必ず馬からおりて、おまいりをするようになったそうです。