一本松とあらくれ(中之郷町)
六ッ美の里、中之郷には、天にもとどくと思われるほどみごとな一本松があります。
「りっぱじゃのう。あの節くれだったえだぶりはどうじゃ。」「ほんとうに、たいしたものだ。」
「一本松は村のたからじゃ。」
むかしから、村人たちは、この松をたいへん自まんし、大切に見守ってきました。
ある寒い日。ゆうべからの雪がようやくやみ始めた昼すぎのことです。
近所でもひょうばんのあらくれ権八が、松の下を通りかかりました。
権八は、松を見上げながら、「えへん、おれ様にかなうもんは、だあれもおりゃへん。だが、おれ様を見下ろしているこの一本松は気にくわん。」とつぶやきました。
そのとたん、もりあがった松の根っこにつまずいて、ひざを強く打ってしまいました。
「いてててえ。ちくしょう。ええい、もうゆるさんぞ。」
言うが早いか、一本松のこぶに足をかけ、するするっとてっぺんに登っていきました。
ボキッ バキッ バサッ こちらのえだ、あちらのえだと手当たりしだいに折っては投げるの大あばれです。

ボキボキッ バサバサッ 村人たちはおそるおそる様子をうかがっています。
「ひどいことをしやがる。わしらの一本松がまるはだかだ。」
真っ赤な西日が、あわれな一本松のすがたを照らしています。
それから三、四日後。
権八は、急にひどい熱が出てうなされていました。あらくれ権八のことですから、だれも助けに来てはくれません。
「水、水をくれえ。」
高い熱は何日も続き、少しも下がろうとはしません。
外はこがらしがふき続けています。
権八の命も、もうこれまでかと思われました。
ところがある日の夜。
権八はふしぎなゆめを見ました。
すきとおるような白い着物をまとった美しい女の人が現れ、「権八よ。わたしは一本松の精です。おまえにえだを折られ、なんぎをしております。今夜はとくにひえて、寒くてたまりません。おまえの着ているわた入れでわたしをあたためてくれませんか。」と言って、すうっと消えてしまったのです。
権八は、はっと目をさましました。
「一本松のたたりじゃったのか。どえらいことをしてしまった。」
ふとんの中でうなっていた権八は、最後の力をふりしぼって、冷たいこがらしの中に出ていきました。
息をゼーゼー言わせ、はいずりはいずり一本松まで来ると、やっとの思いでわた入れをぬぎました。
「わしが悪かった。ゆるしてくだされ。」 権八は、わた入れを一本松のみきにまきつけながら、何度も何度もさけびました。
しかし、その声もふきすさぶこがらしに、むなしくかき消されるだけです。

「もう死んでもいい。」 権八の頭にそんな思いがかすめました。
するとどうでしょう。今までの苦しみがまるでうそのように、みるみる熱がひいていくではありませんか。
東の空が白々と明け、一番どりの声が村中にひびきました。
権八は、夜が明けるまで、はだかのまま、じっと身動きもせずに、一本松をだきかかえていたのです。
その後、権八は心をあらため、村人に決してらんぼうをしなくなりました。そればかりか、一本松のそばを通るたびに、一本松に向かって手を合わせるようになったそうです。
一本松は、今でも村の人々に愛され、守り育てられているということです